腰が痛い。
長い時間、電車に揺られていたせいだ。
山沿いのゆるやかに曲がった線路を進み、目的地が近づいてくる。
緑の向こうに、時々海が見えた。
徐々に南国のムードを漂わせ始めた景色に心がはずんだ。
「レオ、もうすぐ着くよ」
あたしの肩に体重をあずけるようにして眠っていたレオを、そっと揺すって起こす。
「ん? ああ……到着?」
「うん」
レオはグイッと背筋を伸ばして大きなあくびをすると、太陽に目を細めながら窓の外を見た。
「やっと着いたな。白浜」
さっきまで寝ていたくせに、到着したとたん一番乗りでホームに降りるレオ。
それに続いて電車を降り、あたしは周りを見回した。
駅員さんがアロハシャツを着ていること以外は、普通ののどかな田舎の駅って感じだ。
蝉は都会のものよりも大声で鳴き、空も緑も色が濃い。
「なあ、エリコさんのおばさんが経営してる宿って、ここから近いのかなあ」
「ちょっと待ってね」
あたしはエリコさんから聞いていた番号に、電話をかけた。
プルルル……という受話器からの音と辺りを包む蝉の声が、不思議ときれいに重なり合う。
その音に耳を澄ましながら、あたしは瞳を閉じた。
……名古屋、大阪と移動して
ずいぶん遠くまで逃げてきた。
どうか、この白浜では長くいられますように。
ぜいたくは言わない。
安月給でもいいから何か仕事を見つけて、狭くてもいいから住む所を決めて。
どうか長く隠れていられますように。