「あ……」
そこに立っていたのは、アキラさん。
トレードマークのツンツン頭をいじりながら、輪の中に入りこんでくる。
「ほらほら~、俺のキメ顔、披露したるから、早く撮ってーや」
アキラさんがいっそう大きな声でアピールすると、レポーターやカメラマンの注目が彼に集まった。
「アキラさ……」
呼びかけようとしたその時。
カメラマン越しに、アキラさんと目が合って、あたしは言葉を飲みこんだ。
“早く行け”
彼の目が、確かにそう言ったから。
「……っ」
もう一度、深く深く頭を下げて、あたしたちは改札を走り抜けた。
車内に飛び込んだのと同時に、ドアが閉まる。
あたしたちを乗せた電車は、南へと走りだした。
乱れた呼吸を整えながら、あたしは窓から改札の方を見た。
そして、「ありがとう……」と、そっとつぶやいた。
窓に両手をついて、深く息を吐く。
白く曇ったガラスの向こうで、大阪の街が流れた。