「さくらちゃん?」



エリコさんの声で我に返った。



「あ……ごめんなさい。ボーッとしちゃって」



あたしはひざの上で強くこぶしを握った。


手のひらに爪がめりこんで、その痛みで少し冷静になる。



しっかりしなきゃ。


だってあたしたちは、まだ立ち止まれない。



「すみません……明日の朝、出て行きます」



あたしの言葉に部屋は静まり返った。


だけど誰も反論する人はいなかった。


隣のレオも。



「わかった」



アキラさんの声に、あたしは顔を上げる。



まっすぐすぎるその視線が痛かった。


優しさをたたえながらも、まるで何か見抜いたような視線。



「次の行き先は決まってるん?」


「いえ、まだ何も。だけど……」



あたしは少し考えて、言った。



「海がある所が、いいかなあって……」


「それなら和歌山の白浜は?」



突然のエリコさんの提案に、あたしは首をかしげた。



「白浜?」


「うん。海きれいやし、食べ物おいしいし。
それに私のおばさんが、宿を経営してるから、安くしてもらえると思うで」