「タバコ、買おうとしてたんやろ?」
「……」
「ちゅーても、何吸ってるんか知らんから……俺とおんなじ銘柄で申しわけないけど」
「……っ」
思いがけない優しさに触れて、どうやらあたしは、張りつめていた糸が切れてしまったみたいだ。
気がつくと、その場で泣き崩れていた。
「親とケンカして家出?!」
関西人特有の大きな声でそう言った彼に、あたしとレオは目を合わせてうなずいた。
カップルの男の人――アキラさんは、まるで外国人がするみたいな大げさなしぐさで肩をすくめる。
「ほんでふたり一緒に出てきたってわけやな」
「……はい」
「なるほどなぁ~」
アキラさんは腕を組んで難しい顔をした。
嘘をつくのは申しわけないと思ったけど……さすがに言えない。あんなこと。
街の空気を一瞬にして引き裂いた、血の戦慄。
脳裏によみがえる記憶に、あたしはブンブン首を振った。
思い出したくない……。
「なぁなぁ、アキラ。協力してあげてもええんちゃう?」
女の人――エリコさんが言った。