心細さに飲みこまれていた最中、突然現れた覚えのある顔。
「あ……、お久しぶりです」
一瞬微笑みかけて、あたしはすぐに表情を凍らせる。
ダメ。
今は誰とも会えない。
「いやぁ、こんなとこで会うなんてビックリ――」
「――失礼します」
男の人の言葉をさえぎり、あたしはその場を走り去った。
息を荒げながら部屋に戻ってきたあたしに、レオが顔を上げる。
「さくら、どうした」
「出るよ!」
あたしはベッドに腰掛けているレオの腕をつかみ、立ち上がらせた。
「知り合いがいたの! ここにはいられないよ!」
状況が把握できていないレオの腕をぐいぐい引っ張り、ドアを乱暴に開け放つ。
「あっ……」
さっき振り切ったはずのカップルが、部屋の前に立っていた。
「あ、あの、どうしたん? すごい剣幕で」
「……」
目を合わさないようにして黙っていると、
「あの、これ」
男の人がおずおずと、あたしの目の前に小さな箱を差しだした。
マルボロメンソールだった。