名古屋の繁華街の裏に、ひっそりと立つビジネスホテル。


いつ幽霊が出てきてもおかしくないような、不気味さの漂うロビーに入る。



「こちらがお客様のルームキーです」



カウンターで差しだされた鍵を、無言のまま顔を上げずに受け取った。


フロントの小太りの男は特に気に留める様子もなく、軽く頭を下げた。




本当なら、今頃沖縄にいるはずだったのに。




……がむしゃらに走って、とにかく逃げなければとタクシーに乗りこみ向かった先は東京駅。


たまたますぐに乗れたのが、名古屋行きの新幹線だった。



エアコンの効いた車内。


めまぐるしく移り変わる外の景色を、レオとふたり、言葉も交わさず眺めていたんだ。






「――お客様?」


「あっ、はい!」


フロントの男の声で、正気に戻る。


あたしは小さくため息をついた。




レオの手を取って、鍵に書いてあるのと同じ番号の部屋に入る。


部屋は狭く、電気をつけても薄暗かった。


壁は湿気を帯び、ところどころ黄色い染みを作っていた。



それでもよかった。



あたしたちを隠してくれるなら、どんなに暗く寂しい部屋でも。