「また来てもいい?」
そんなことを言ったくせに、レオはなかなか訪れなかった。
あたしは本人の承諾をいいことに、堂々と“目だけ”でストーキングに励む日々を送った。
彼は今まで通りほぼ毎日出勤し、朝から晩まで働いている。
たまにこっちの部屋を向いて手を振ってくれた。
「誰に手振ってんの?」
部屋に遊びに来ていたコウタロウが、猫の大吾の耳をいじりながら、あたしを見た。
お母さんのひざ枕で耳掃除をしてもらう子供のように、うっとり目をつぶる大吾。
この猫の本当の飼い主は隣の山本さんだ。
大吾は時々ベランダの柵を越えて、あたしの部屋まで出張サービスしてくれる。
どこにでもいるような普通のミケ猫で、こんな男らしい名前だけど、実はレディである。
「さくら、さっき誰かに手振ってなかった?」
「ん? 向かいのマンションで子供が手振ってたから」
「めずらしいじゃん、さくらが子供をかまうなんて」
コウタロウはあたしの肩に手を置いて「どこどこ?」と言いながら窓をのぞき込む。