「キャァァーッ!」
どこからか悲鳴が上がる。
突然どよめきたつ、さっきまで平和だったはずの町並み。
「人が轢かれたぞ!」
「救急車呼べ!」
座ったまま動けないあたしの前を、人がバタバタと走り回る。
止まった車の運転席にいるおじさんは、青ざめた顔でハンドルを握っていた。
……みんな、何をそんなに騒いでるの?
車の数メートル前方には、人だかりができている。
そこに……何があるの?
あたしは地面におしりをつけたまま、ジリジリと後ずさりした。
トンと指先に何かが触れる。
あの、卒業文集だった。
「……逃げよう」
うまく声が出せない喉を震わせ、あたしは無意識にそんな言葉を発していた。
「さく……ら……?」
同じように放心状態だったレオが振り返る。
あたしは左手でバッグを抱え、右手にレオの腕をつかんだ。
「早く逃げようっ……」
ざわめく人ごみをすり抜けて、あたしたちは走りだす。
いったい、どこに向かってるの?
わからない。
そんなの最初から知らなかった。
ただ……遠くまで。
遠くまで。