リビングに戻ると、コーヒーメーカーが熱そうな湯気を上げていた。
あたしは普段インスタントしか飲まないから、コウタロウが来た時だけ、こうやって本格的なコーヒーをいれてもらえる。
香ばしく漂うコーヒー豆の香りは、何年間もあたしのそばにあった、コウタロウの香り。
「温まった?」
コウタロウはあたしを引き寄せて、タオルで髪をふいてくれた。
コウタロウと二人でソファに並んで、テレビを見ながら一緒にコーヒーを飲む。
数え切れないくらい繰り返してきた光景。
レオと座った時よりも、ソファが少し狭く感じる。
コウタロウはテレビの出演者に突っ込みを入れたりして、そしてCMのたびにあたしの方を向いて、軽く微笑む。
以前はそのしぐさがすごく好きだった。
けど、今はもう何も感じない。
「新しいドラえもんの声って、やっぱ俺ら世代にはシックリこないよな」
アニメを見ながら首をかしげるコウタロウ。
普段はそんなに口数が多い方じゃないのに……
気のせいかな。
今日は、よくしゃべってる気がする。
あたしはそんなコウタロウに、「そうだね」と小さく返事した。