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バーの客は、いつの間にかあたしたちだけになっていた。



「納得していただけましたか? さくらさん」


「………」


「まあマユミとのことは、後で彼女本人から聞いて知りましたが」



すでに何杯目かもわからないブランデーを、成瀬は氷ごと口に流し込み、そしてつぶやいた。



「金のためにするセックスの末生まれた子供。
それはどういう気持ちなんでしょうね」



あたしは何も言えなかった。


成瀬が荒々しく氷をかみ砕く音だけが、静かな店内に響いた。



成瀬はカウンターに1万円を置くと、ゆっくり立ち上がった。



「あのっ、彼のお母さんは……」



あたしの声に、成瀬は立ち止まる。



「彼のお母さんは、あなたとはどんな関係だったんですか?」


「………」



成瀬は扉のノブに手をかけると、聞こえないくらいの小さい声でつぶやいた。



「彼女は……僕の妹でした」



あたしは唇をかむ。


この人もまた、何か痛みを抱えて生きていると思った。




成瀬の細い背中は、夜の闇に消えていった。