さっき運ばれてきたばかりの成瀬のグラスはすでに空で、次の注文をするまでもなくバーテンが新しいブランデーを差し出す。
無茶な飲み方をする男だと思った。
成瀬はグラスいっぱいの酒を見つめながら、前ぶれも無く口を開く。
「さくらさんのご両親は?」
「……健在ですけど?」
「そう。じゃあ貴女はとても幸せな人だったんですね」
成瀬は再びグラスの中身を空にすると、あたしを見た。
「あいつは……ハヤトは親の顔すら知らないんだから」
その声の冷たさに、動けなくなる。
――それはずっと孤独だった、少年の物語。
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