私はその日、本当に花音ちゃんが私の家でチョコを作るだろうと確信していた。

ある人物に呼び止められるまでは。


「お、大塚…」

下駄箱でローファーを履いているとき、その人物は現れた。

話があるんだけど…と俯きながら続けたのは、同じクラスの田中君だった。

「あ、わかった」

答えながら、常に坊主頭にしているから野球部なんだろうな、など、どうでもいい入学当初からの先入観が頭を過ぎる。

「里子?早くしてよね」

既にローファーを履き終えた花音ちゃんが、イライラしながら出口で待ってる。