「とりあえず、落ちつけよ」
 
「落ちつけだと!? どうしてこの状況で落ちつけというのだ!」
 
 
 怒りを露わに怒鳴りつけ、今にも殴りつけてきそうな勢いのセリオン。
 
 そんな彼の肩を、フレイは抑えながら言った。
 
 セリオンよりも、背も体格も力も強いため、よゆうそうに抑えつける。
 
 
 
「それより兄さん。ここ離れないと、あいつらに見つかったらヤバいよ」
 
 
 腕を強く握られたせいの痛みに、少し涙目になりながらもウィンは提案した。
 
 キョロキョロとあたりを見ながら、怯えの表情を顔に浮かべつつ。
 
 
 
「ああ、確かに。
 ということだから、あんた、少しガマンしてくれよ?」
 
「おい、俺の話しをき」
 
 
 彼女の言葉に眉間のしわをよせ、フレイは一回首を縦にふる。
 
 そして、セリオンに一応断りの言葉を入れた。
 
 自分の話を聞かないどころか、二人で勝手に話しを進めていく。
 
 そのことにも怒りを感じ、そのことを指摘しようと大口を開けたセリオンを、フレイは慣れたようにふさぎ抱えこんで走り出した。
 
 そんな彼の前には、身軽に駆けるウィンの後ろ姿が見える。
 
 セリオンは急に抱えられ視界が変わったため数瞬あっけにとられ、彼女のはねる三つ編みを呆然と見つめた。
 
 そして、なんとか我を取り戻すとフレイの腕の中にも関わらず力の限り暴れ出す。
 
 だが、暴れようがわめこうがフレイの呪縛は解けなかった。
 
 しっかりとセリオンを固定し、抵抗をものともせずウィンにつづき走り続ける。
 
 学をよしとするアイスラの民と、力をよしとするファイアルの民。
 
 その腕力などの力の差は、はっきりとしていた。