一人でアイスラの短い秋に向けて成長している麦を見ているとき、突然すれ違った男に袋をかぶせられ、慌てて暴れていると袋のなかに眠りを誘う薬を入れられたのだ。
 
 アイスラの民であり、貴族として最高の教育を受けてきたセリオンは、少し匂いを嗅いだだけでその効果もどの配合でつくられたものだということもわかったのだが、対抗する統べもなく呆気なく眠ってしまった。
 
 
 
「はい、お水」
 
 
 整った顔立ちの、キラキラ輝く若草色の瞳の少女から、セリオンはコップを受け取り一気に飲み込む。
 
 飲み込んでから、喉がカラカラだったと気付き、途端に頭が冴え渡る。
 
 
「っ! お前ら、ここはどこだ!?
 俺が誰だかわかっての愚弄であろうな!!」
 
 
 木でできたコップが、地面にあたり軽く跳ねる。
 セリオンは、目の前の少女・ウィンの両腕を掴み、怒濤の怒り声を浴びせた。
 
 
「てめ、とりあえず離せ!」
 
 
 急に大声を出し始めたセリオンに、ウィンは戸惑いを隠せず目を丸くする。
 力一杯腕を掴まれている痛みすら、感じないほどに。
 そこに、セリオンの手にかなりの力がはいっていることに気付いたフレイが、慌てて二人を引き離し間にはいる。
 
 
「お前らの目的は何だ!? 金か!?
 どうせブラウドール家の財産か地位か商いの権利かだろ!!」
 
 
 今度はフレイに怒りをぶつけるセリオン。
 どうでもよさそうな表情のフレイと、痛そうに掴まれた腕をさすっているウィンの様子は、怒りのため目に入っていない。