持ってきたコップから、水を少しだけ眠ったままの青年の顔にかける。
 
 冷たい雫に反応し、彼は眩しそうにゆっくりと目蓋を開けた。
 
 
「あ、兄さん兄さん、気付いたよ!」
 
「俺も見てんだから、わかっとるっちゅーに」
 
 
 聞き慣れない、はしゃいだ幼い少女の声と、苦笑を交えた明るい男性の声。
 
 それに、アイスラの青年はまだ上手く回転していない頭で、何となく違和感を感じた。
 
 
 右手で木の葉の間から漏れる太陽の光をさえぎりながら、満面の笑顔の少女と軽く笑っている青年の顔を見る。
 
 
 
「…………」
 
 
 ぼーとした頭で、この状況を理解しようと彼は過去を振り返る。
 
 
 
 彼の名は、セリオン・R(ランバート)・ブラウドール。
 
 こった作りの美しい服からもわかるとおり、貴族であった。
 
 ブラウドール家の長男であり、次期家督を継ぐ者である。
 
 
 
 ブラウドール家の者として、様々な最高の教育を受け、今回はブラウドール家の領土で最南の地へ、そこの地理や作物などを実際に見て、学ぶために来たのであった。