「口が悪いですよ。リリー」
「ふんっ」


そしてマスターに問われるままに昨日の私のようにとつとつと彼は悩みを話し出した。

ふんふんなるほど。

関係者じゃないはずの私はちゃっかり聞き耳を立てる。



彼はどうやらその若さにして小説家を目指しているらしい。
小説を書く為に色んな事を吸収するよう心掛けて生きて来た彼は、ふと思ったんだそうな。

…めんどくさいからあとは成り行きに任せよう。


「物語の中では、良い役がいれば悪い役がいないと面白くない。
でも理由なくなった悪役はいない。
主人公にとっては悪い奴でも、違う誰かにとってはそいつは救いかもしれない…
そんなことを考えたら、悪役なんていないんじゃないかって」


…うーん。
「でもそれじゃ話が面白くないんだーっ」とかなんとか言いながら彼は頭を抱えた。

つい、私は口を挟んでいた。


「物語の中で"善"と"悪"できっぱりわけようとしちゃうから行き詰まっちゃうんじゃないかなー」