台所へと足を進める優真にふと誰かの話し声が耳に入ってきた。


(この声は……)


妙に気になった優真は歩みを止め、廊下の角に身を隠す様にして人気のない廊下の奥を覗き見る。


(佐伯さんと……佐々木?)


其処には、芹沢の部下である佐伯と佐々木が何やらこそこそと話していた。

だが、どうも様子がおかしい。

佐伯の目は鋭く深刻そうな表情を浮かべており、佐々木もまた同様の表情なのだが、それに加え佐々木の方は怒りが含まれている様な気がした。


佐伯と言えば、普段あの様な表情をする事は決してない。

何時も優しい微笑を浮かべ性格も温厚で真面目。芹沢の部下の中では珍しく好感を持てる人物だった。


(佐伯さんがあんな顔…。何か深刻な事でもあったとか……)


暫くすると、話が終わったのか観察していた優真に気付かぬまま佐伯は何処かに行ってしまった。

一方、佐々木はその場から動く気配がない。

このまま立ち去ろうかと思った優真だったが、心の何処かで何か引っ掛かる。



……仕方ない。

他人事に無闇矢鱈(ムヤミヤタラ)と突っ込む事はしないが、今回は寧ろ突っ込まないといけない様な気がした。

少し気が引けるけど。



優真はゆっくりと思考に耽っている佐々木に近づく。と、その足音に気付いた佐々木が振り向いた。

そして優真を見た瞬間、難しい顔からサッと驚きの表情へと変わった。