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山崎は一人、壁に背を預けていた。

もうすっかり陽は昇っている。
障子を通して入る陽の光が部屋を明るくしていた。


あの後、優真は朝稽古があるからとそそくさと部屋を出ていった。


「斎藤さん、いいんか?」


しーんと静寂を保つ部屋に山崎は言葉を投げる。この部屋は山崎以外誰もいない。


勿論、──何も返ってこない。


山崎は優真が出た障子ではない、隣の部屋へと続く襖に視線を移す。


だが。


山崎が其処を暫く見つめているとススーと襖が開き、一人の男が音もなく現れた。

山崎はその男を一瞥し、これ見よがしに溜め息をつく。


「斎藤さん、其処で聞くくらいやったら自分で言えばいいやん」

「……」

「…だんまりか。優真と何があったか知らんけど、わだかまりっちゅーか、そーゆうのはさっさと取らなあかんで」


山崎は斎藤と優真に何があったかは判らないが、二人の間に何かがあったことは薄々気付いていた。

平間が優真をつけていることを山崎に教え、警告してきた斎藤。

自分の名は出すな、と斎藤は言い山崎に言わせたことが山崎を確信へと導かせた。




「別にわだかまり等ない」


何時もの抑揚のない声で淡々と言う斎藤の表情は何も読み取れない。そんな斎藤の様子に山崎はすくっと立ち上がると斎藤に近づいた。


「わだかまりじゃないなら、認めてないだけかぁ?斎藤は優真のあれ、…知っとるみたいやしなぁ」


そう言った山崎の表情はニヤリと笑っている。


「……」

「無理に認めろとは言わん。やけどな、」








 ──相手を知ろうとすることも大事や。



そう言った山崎は更にニヤリと笑みを深くした。