「しっ!静かにしぃ、丞や」


(…はい?丞?ちょ……えっ?)


「──んー!むぅ!」

「あーもう、いい加減にせい!あっ、蹴るな!奴に見付かるやろ!」

「…っん?」


そこで暴れていた優真の動きがピタリと止まった。


(奴って……何のこと?)


もう抵抗しないと思ったのだろう、山崎は優真から離れふぅーっと小さく息を吐いた。

解放された優真は鋭い視線を山崎に投げる。その瞳は、“説明しろ”と言っていた。

その様子を山崎は一瞥し障子に近づく。外の音を確認しているのか微動だにしない。

暫くすると山崎はホッと安心した様な表情になり、くるりと優真に向き直った。


「行ったみたいやな。あんなぁ、自分平間からつけられとるで?」

「平間……じゃあ、今までの視線は」

「おぉ、流石優真。やっぱ視線は感じてたんか。そう、平間や。毎回優真からは死角になっとる場所から見とったみたいやけどな」

「何でだ?」




何故自分をつけるのだろう。

理由が分からない。

まさか、芹沢が何かを狙って女疑惑のある自分を平間につけさせたのだろうか。

分からない。




眉間の皺を深くさせ、悶々と考え込む優真は突如「あっ」と声をあげ山崎をじーっと見つめる。


「な、何や…」


優真の強い双眸を受け、山崎は少々たじろぎながらも優真との視線を交えた。


「疑問なんだけど、丞は何で私がつけられてるって知ってたの?さっきの言い様じゃ、前から知ってる様な口振りだったけど」

「まぁ、あれやあれ。俺は監察やからな!そーゆうことにはいち早く気付くんや」


「ふ〜ん…」と少し疑いの目を向ける優真だが、そのことにあまり興味はないらしい、すぐにパッと何時もの冷たい表情に戻った。


「平間の行動は何でか分からんけど、用心しときぃ。さっきみたいにぼーっとしとると危ないで」


「…分かってるよ」


少し顔を紅くしながら目線を下にやる優真は、先程反応できなかったことに恥ずかしさがあるのだろう。

本人は紅くなっていることに気付いてないだろうが。優真の性格上、気付いていたらすぐに顔を隠す筈だ。