「何、変な顔してるの」

「………」

「ほら、優真も早く座りなよ」


藤堂はぽんぽんと畳を叩く。


「………はぁ…」

「何、その溜息」


部屋に入った優真の目に飛び込んできたのは、さも当たり前のように優真の部屋に居座る藤堂──。

ご丁寧にもお茶が二つ用意してあり、その一つを手に藤堂はズズズッと喉を潤していた。


(なんで部屋にいるの、平助……。さっきのといい……はぁ……)


先程感じた明らかに己を見ている視線のことを思い出す。


誰かは判らないのだが、最近屯処内でそういうことが多々あるのだ。優真が何事かと振り向くも、そこに誰もいないから質が悪い。


日々他人の視線を受けることに優真のストレスは溜まる一方だった。


(ここのところ、あまり寝れてない…)


この時代いつ何が起こってもおかしくはなく、誰か判らぬ視線を感じるようになってからは屯所内とはいえ、常に気を張っている優真は夜もろくに眠れない。




「さっきさぁ、見たよ」

「───…え?」


優真が思考に耽っていると、足をだらんと伸ばした藤堂がニヤリと笑いながら言う。

優真が怪訝そうにしているのを見て藤堂は再び口を開いた。


「稽古だよ」

「あぁ…、それのことね」

「凄いじゃん、初めての稽古であんなにまとめれるなんてさ」

「私もまさかあそこまでちゃんとしてくれるとは思わなかったよ」


しみじみと言う優真の表情は少し困惑していた。恐らく想像していた隊士の態度と大分違っていたのだろう。




「──それよりも」


突然スッと立ち上がった藤堂はそう言うと、優真にじりじりと近づいてきた。


(………はぃ…?)


突然のことに優真は目を見開いて固まることしかできない。

優真のこの表情はさぞ見物だろう。


とうとう優真の顔の目の前に、藤堂の不気味な程に笑顔を浮かべている顔がきた。

どちらか一方が動くと下手すれば互いの唇が触れ合うかもしれない。