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「遠慮させて頂きます」
そう言って優真は丁寧にお辞儀をする。
それを見て土方は口を引きつらせた。
土方の手にある煙管が小刻みに震えている。
「──おい。何でだ」
「何でって言われても、前に散々なめに遭ったし。それに私が居なくても大丈夫でしょ」
稽古が終わり自室に戻ろうとした優真に土方が声を掛けたのは、つい先程のこと。
何でも今宵、芹沢が酒宴を催すらしい。
その酒宴と言うのが、水口藩の公用人と揉め事が起き、和解する為に開かれるのだという。
そこで優真もそれに出ろと言われたのだ。
土方曰く、芹沢にこれ以上街や店で暴れられても困るので見張りとして数人出席させたいとのこと。
「ハッ!ふざけんなよ、てめぇ。これは任務だ」
「任務って…。芹沢さんがいる酒宴なんて何か起こる気がしてならないんだけど…いや、絶対起こるね」
うんうん、と頷き優真は土方の脇を通り抜けようとする。
「お前逃げる気かっ!」
「それは違う、かな。実は今朝、原田さんに今日の夜の巡察変わって欲しいって言われたから、変わってあげちゃった」
さも出席出来なくて残念というような素振りを見せる優真だが、その口元は上がっていた。
(この前みたいに意識なくなるまで飲まされたらたまったもんじゃない)
優真は唖然としている土方を残し、自室へと足を進める。
近頃暑くなってきた気候の変化を優真はしみじみと感じる。
そこで優真の眉がぴくりと微かに動いた。
(………、またか)
最近やたらとこういうことが多くなった気がする、と思いながらそのまま何をするわけでもなく優真は自室へと入った。