ふらりと足取りの覚束ない者が部屋から出てくる。

その人物は壁に手をつきながらフラフラと数歩進むも上手く歩けていない。

どうも意識が朦朧としているように見えた。



信太郎はそこで気付いた。

その人物が着ている袴に見覚えがあった。

それに結ってある長い黒髪にも。


「先生!」


信太郎の声に反応したのか、部屋から出てきた人物はビクッと躯を揺らして俯いていた顔を上げた。

血の気のなくなったその顔は紛れも無い斎藤と信太郎が捜していた…





───優真だった。



───────



「先生!」


信太郎の声が訊こえた気がした。

あれ…幻聴が訊こえ出した…かも。
あー…これはやばい。


そこで優真は声がした方へ吐き気を堪えて顔を向けた。


…重症だ…完璧呑み過ぎた。
幻覚まで見える。

だって此処にいる筈のない信太郎の姿が見える。それに何故か今一番会いたくない斎藤まで。

呑み比べなんかをさせられたせいだ。

無理にでも断ればよかった…いや、そしたらそれはそれで危ないか。


あぁ……もう…限界っ…………。


そう思った瞬間、目が廻る感覚に陥ってそこで私の意識は途切れた。