「…着いた…」



額にうっすらと滲み出た汗を袖で拭いながら信太郎はポツリと漏らす。


意外と早く目的の店へ着くことが出来た。
それもこれも斎藤の歩く速さが尋常じゃなかったからだ。


最終的には僕、殆ど走ってましたよ……。


前方で店の主人と涼しい顔で話している斎藤を信太郎は恨めしげに見る。



「──っ!」



と、バチッと今だに慣れない斎藤の鋭い双眸と絡み合い、信太郎は一瞬ビクリと躯を動かした。

どうやら主人との話が終わったらしい。



「…この通路を右に曲がった奥の部屋だそうだ」



何時もの抑揚のない低い音色で告げられる斎藤の言葉をしっかりと信太郎は訊くと、判ったという意味を込めて首を縦に振る。


それが伝わったのか、斎藤は背を向け歩き出した。

それに信太郎も続く。


どの部屋も賑わっているのだろう、部屋の前を通り過ぎる毎にガヤガヤと楽しそうな声が通路まで響いていて少々騒がしい。


目的の部屋が二人の視界に入った処で、その部屋の襖がガタッと音をたてて開かれた。