斎藤は鋭い視線を浴びせながら信太郎に近付いてくる。

信太郎は斎藤との距離が縮まる毎に、自分の心臓がドクンッドクンッと飛び跳ねるのを感じた。

まるで悪いことをして捕まる気分…
…いやいやっ、僕は先生を迎えに!



「斎藤さん!僕は「行くぞ」

「いや、だから………って、はい…?」



いつの間にか斎藤は信太郎の前を通り過ぎて足を進めていた。

それも優真がいる茶屋へと続く道へ。


「…早く来い」


ぼーっと突っ立っている信太郎に気付いた斎藤が振り向き、鋭く突き刺さりそうな双眸を向けてきたので、信太郎は急いで斎藤の元へ走る。

どうやら斎藤は一緒に行くつもりらしい。
それも目的地を判っているような足取りだ。


な、何でだろう?
先生が教えたわけでは……ないですね。
むしろ絶対有り得ない。
苦手だって、この前言ってましたもん。


「…おい、もう少し早く歩け」


ぶつぶつと呟きながら下を向いて歩く信太郎に斎藤の冷たい声が降り注ぐ。

信太郎が他のところへ意識を持っていかれてる間に、先程まで隣に居た斎藤の姿は随分遠くに移動していた。


「…ハッ!…待って下さい!」


信太郎はそれに気付くと斎藤の後を追って暗闇の中へと消えて行った。