昨日、彼女は休憩時間になると、すぐにどこかに行ってたみたいだし、放課後も早々に教室からいなくなってたから、NYからの帰国後、彼女と話しをするのはこれがはじめてということになる。

「ねぇ、昨日、話したかったのにすぐに帰っちゃったんだね」

着席した彼女に話しかける。

「塾があったから」

「ひょっとしてロムと同じ塾?」

彼女は黙ってうなずいた。

「ねぇ、ロムとお菊って付き合ってるの?」

“お菊”っていうのは言うまでもなくキクチ・ヨーコのことだ。

「古内くんは菊池さんにとって、ただのアッシーくんよ」

「“アッシーくん”って…?」

「今と違って日本経済が好調だったバブルの時代は、ひとりの女のヒトが、何人もの男のヒトたちと同時に付き合っていたそうよ。男のヒトたちはみんなそれぞれ役割分担が決まっていて、彼女を食事に連れていく役が“飯(メッシー)くん”、そしてクルマで送り迎えするのが“足(アッシー)くん”って呼ばれてたみたい」

「ソレってただの運転手じゃん!?」

彼女は再び黙ってうなずいた。