真剣なまなざしで、あたしの髪にからみついたガムを取ってくれている若い男の人は、美容師アシスタントの“アンドレ”こと安堂っていうヒトだった。

そんな彼に、省略に省略を重ね、そしてところどころ脚色をしながら、東京で過ごしてきたこれまでの実話のdigest(ダイジェスト)を話して聞かせたあたし。

“会ったばかりのヒトにこんなことを話すなんて…”って自分でも思うけど、その一方で誰かに聞いてほしいと思うあたしもいた。


「へぇ、そんなことがあったんだ。友達がキミに嫉妬する気持ちも分からないじゃないけど、なにもそこまでしなくてもいいよな」

あたしの話が終わると、彼はおもむろにクチを開いた。


「コッチのほうも終わったぜ♪」

「えっ、ガム全部取れたの?」

「ホラ、このとおり♪」

鏡の中で、彼があたしの後ろ髪にクシを入れると、すぅーっと滑るように毛先のほうまでクシが通った。

この美容院に足を踏み入れたとき、あたしの後ろ髪は、ガムがこびりついてからみつき、シッチャカメッチャカのグッチャグッチャ状態で、部分的に束になっていて、当然クシなんて通るはずもなかったのに、それが今では元通りのまっすぐな髪になっている。