だけど一生に一度しかない初体験の相手が、こんな見ず知らずの人なのかと思うと、どうしても納得できないあたしがいた。

いや、だからって別に、もし仮に相手が若くて超イケメンの男の人だったとしても、喜んでvirgin(ヴァージン=処女)を捧げるってことじゃないけど……。


2メートル、1メートル、0メートル…


スタ、スタ、スタ……

あたしは歩みを止めることなく、白いネクタイの男の人の前を、タダのひとりの通行人のフリをして通過してしまった。

あたしのはじめての相手となるべき、男の人もあたしのほうには目もくれず、あいかわらず人待ち顔をしていて、あたしを呼び止めたりもしない。

待ち合わせのときの目印として、相手は首に白いネクタイをすることになっていたんだけど、あたしのほうはなにも目印になるようなものは用意していなかった。だから、あたしのほうから声を掛けさえしなければ、誰が相手なのか向こうからは分からないはず。


スタ、スタ、スタ…

1メートル、2メートル、3メートル……

どんどん男の人から離れていくあたし。

4メートル、5メートル、6メートル…