ましてや、自分自身にどうしてもお金が必要だというような緊急事態的なsituation(シチュエーション=状況)にでもあるのならともかく、他人のために……キクチ・ヨーコのために見ず知らずの人に体を許すなんてこと、あたしにはできない。

できるはずない。


その夜はいつまで経っても、心の中が不安な気持ちのまま落ち着かずに、ベッドの中で100回以上寝返りを繰り返しながら、結局、一睡もできないまま、土曜日の朝を迎えることになった―――――



      ×      ×      ×



翌日は朝から食欲もなく、パンもコーヒーもまったくと言っていいほど喉を通らなかった。


AM9:30――

気分転換にでもなれば、とテレビの生放送の情報番組を見てみようとしたんだけど、なんだかじっと椅子に座ってテレビを見ているような気持ちにはなれなくて、自分の部屋に戻るあたし。


チッ、チッ、チッ…

アナログ式の壁掛け時計の針が、規則正しく時を刻んでいく度に、毎秒ずつ確実にあたしに残された時間が削り取られていく。