「ちょっと、ちょっとって・・・」
奈楠がもがく。


でも俺は
この天使が俺の前から
消えてしまう不安と闘っていた。


「このまま・・・
なんか子供のころに今
タイムスリップしてるんだから・・・」


俺は目を閉じた。
あの頃の奈楠の笑顔が浮かぶ。


「可愛い奈楠・・・
愛しい奈楠・・・・
俺になついて本当に可愛かった。
学校に行ってもおまえが
保育園でつらい思いしてないかとか
ミルクちゃんと飲んでるかとか
心配だったな~
帰ってきたらその笑顔で
俺に向かって手を差し出すから
たまらなくなって
こうして抱きしめた。
俺のガキの記憶の中の唯一の幸せな記憶
おまえがいなくなった日
思い出したくない・・・・
あれからずっとおまえを引きづった。
同じ年ごろの子供を見ながら
奈楠を想像してた・・・・
ごめん。
俺、何にも気づいてやれなくて・・・
おまえが出て行くことを
止めることもできなくて
自分勝手だった・・・・
こんなに大事なのに
俺の記憶の天使なのに・・・・
一人で苦しませて
病気にさせて
ごめんな。
もう絶対離さないから・・・・
ずっと一緒にいような~」



俺は、奈楠の痩せた体を
抱きながら


奈楠を失う恐怖を考えた。


奈楠の命の限り
兄ではなく
家族ではなく
一人の男として
愛していくことを誓っていた。


「今・・・
気がついた・・・・
俺・・・奈楠を愛してる・・・」


奈楠の細い肩が揺れた。