水月…
……水月…水月…
……ああ、
僕か
「ッ!」
周りがだいぶ暗くなって、さっきまで見ていた森…いや見ていたのかさえ覚えがない…のもう一歩手前くらいまで来ていた。
「水月!何してる!かえってこい!」
声のしたほうを振り返るとこっちに向かって走る姿が微かにわかる。手前5mにきてやっと顔が識別できた。
「…おじいちゃん…」
その必死な形相に、何か後ろめたい気持ちになる。
おじいちゃんは肩で息をしながら安堵と痛さを堪えるようなどこか複雑な表情をしていた。
「…あの…僕は…」
暗くなったら危ないから帰らなきゃならないことは知っていたし、
まして家出なんて考えてない。まだそんな勇気(どちらかというと無謀さ)はもちえてないから。
「…………」
年上の、しかも慕っているような人に失望とか呆れとか、そんな感情を持たれるのはただ恐怖でしかなくて。それを開き直る度胸もなくて。
だからこそ何も言わない今のおじいちゃんは、僕が最も恐れるものでしかなかった。