桜の形をしたペンダント
私がいつも肌身離さず持っているもの。
いつからそれをつけ始めたのか解らない。
でも、いつの間にかそれはいつも私の首にあって、ないほうが違和感を感じるようになった。
ただ一つ解ることは、これが誰かに貰ったものだということ。
私はこんな女の子っぽい、かわいらしいものは好みじゃないし、持っていない。
友達にも、私っぽくないと言われる。
だから、これはきっと誰かに貰ったものなんだ。
その誰かは解らないけど。
今年も桜の季節がやってくる。
私は桜が好きだ。
教室の窓から見える校庭の桜も
土手に並ぶ桜並木も
公園に咲く数えきれないほどの桜も
みんなみんな好きだけど、私が1番好きなのは
私の家の裏にある山の入口にぽつんと咲いている桜。
たった一本だけ寂しそうに、でも逞しく咲く桜が好きだ。
その桜は校庭の桜よりも、土手の桜よりも、公園の桜よりも綺麗だ。
はかなくて、でも力強い。
何よりも、一度見たら忘れられない
そんな桜だった。
そんな桜を見に来る人はいない。
少なくとも私が知る限りでは。
この桜は他の木に囲まれるように立っているから、近づかなければ見えないのだ。
今の季節は山に登る人もいないし、誰もその存在に気付いていないのかもしれない。
それは、なんだか勿体ないような、でも独り占め出来ることを嬉しく思うような不思議な感覚。
いつか、教えたくなるような人が出来るかもしれない。
でも、今はまだ誰にも教えたくなかった。
新学期が始まった日、私は桜を見に行った。
家から歩いて5分。
春の温かな風を感じながら歩くのは気持ちいい。
車なんか通れない、狭い土の道を歩いていくと桜が見えてきた。
それと同時に人影が目に入る。
珍しいな、誰かいる。
近づいてみる。
どうやら男の人みたいだ。
私には気付いてないみたい。
どうしよう。
また後で来ようかな。
ちょっと離れたところで迷っていると、男の人が気付いたようで振り返る。
ちょっと驚いたような顔をしたあと、優しく笑った。
知り合いだっただろうか。
近づいてくる男の人をよく見る。
やっぱり解らない。
「あの、何処かで会ったことありましたっけ?」
私の前で立ち止まったその人に問い掛ける。
そういうとその人はちょっと寂しそうに笑った。
「うん、昔ね」
懐かしそうに私を見るから、本当に会ったことがあるのだろう。
「ごめんなさい。全然覚えなくて。私記憶力悪いから」
なんだか言い訳っぽく聞こえたかな。
まぁ、覚えてないんだから仕方ないんだけど。
「仕方ないよ。結構前の事だし」
「でも、俺は君の事知ってるってことだけは覚えおいて」
また優しく笑う。
なんだか懐かしい。
でも、思い出せない。
何だか苛々した。
「じゃあ、またここで会おう、真琴」
私の名前。
君は一体誰なんだろう。
歩いていく後ろ姿を見つめながら、そう思った。