「別にどうという訳でもないさ。ただ、俺は世界をそのように認識しているというだけ。世界の在り方というのは、この個人の認識一つでどのようにも変わるんだぜ。認識ってのは、先入観、価値観、あるいは内的準拠枠とでも言い換えられるかな。で、お前はどうなんだ?」
「どうって、何が?」
少年は彼の質問の意味を確認する。
「だから、お前はこの世界をどう認識しているか?ってことだよ。」
問われて少年は
「俺は・・・そうだな、良く分からないな。」
と、曖昧に答える。
「分からない、か。素直な答えだな。お前のそういう所、嫌いじゃないぜ。だが、自分の立ち位置は常に決めておいた方がいいぞ? さもないと、いざと云う時に致命的になる。」
「いざと云う時・・・ね。まぁ、肝に銘じておくよ。」
そう少年が答えると、クラスメイトは満足したのか僅かに笑顔を浮かべ、
「そうか。それじゃあ、そろそろ帰るか。また明日な。」
と別れの挨拶をして、その場から立ち去った。
 その後姿を見送り、少年は考える。『自分の立ち位置、か。俺の立ち位置は・・・。それにしても突然こんな話をするなんて、どうしたんだろうか?』
少年の背中では真っ赤な夕日が世界を一色に染め上げ、間も無く訪れる黄昏を・・・そして徐々に迫り来る闇を予感させていた。