授業の終わりを告げるチャイム。
毎日繰り返される合図。
それは少年にとって現実を直視せざるを得ない、始まりの鐘でもあった。

 帰り道、少年は思う。

「学校はいい。取り敢えず勉強さえしていればとやかく言われることはないから。問題は・・・」


玄関の扉を開ける。

「・・・ただいま」

少年は習慣的に呟く。
しかし返事は無い。それはいつものこと。
カバンを置きソファに腰掛ける。
いつもの行動。
いつもの日常。
それは永遠に続くかと思われる繰り返しの日々。
その中に刻々と変化しているもの、それを感じ取れない自分。
変化していることを感じる為には、自分が変わらないこと。
しかし、少年は変わらない日常の中に居て、変わらずには居られなかった。
それ故に、少年はその変化を感じることが出来ないでいた。

 夜、ベッドで横になる。
後は眠りに就くだけだった。

「この瞬間が最も安らぎ、そして悲しくもある。」
「ここに辿り着くまでの数時間の苦痛を思えば。」
「明日も繰り返すこの日常を思えば。」
「何という屈辱・・・いっそこのまま死ねたらいいのに。」

こう願いながら眠りに就くのが、やはり変わらぬ日常。
外には朧月、翳る夜空を視る者は居ない。