夜である。
空には雲が懸かっている。
月はない。
辺りには静寂が立ち込める。
そんな夜である。

 少年が立っている。
空に視線を遣りながら。
視点の定まらない、どこか物憂げな、そんな表情をして。

 その少年は考える。
過去について。
そして現在について。
さらには未来についても。
過去は変えることが出来ず歴然と佇み、現在は留まる事を知らず過ぎ去り、そして未来には常に手が届かない。
世界の理とも言える事実を前に、少年は葛藤する。

「自分とは何か?」

 そんな単純な、けれど極めて難解な質問に、自問自答を繰り返す。

「結局、答えは自分の中にしか存在しないのだろうな」

誰に語るでもなくそう呟くと、少年はその場から立ち去った。

 静寂がその場を覆う。
月の光は届かず、辺りには一層の闇が広がっていた。