たった一つの認識が世界を変えることになる。世界は確かにあるものの、その存在の確かさを証明する術はない。所詮、世界は人それぞれの認識の中にしか存在しないのである。その一つの認識こそが、生きていく上での唯一の光明なのだろう。
「今思えば、あの時に俺の世界は変わったんだろうなァ。自分の立ち位置を決めた瞬間・・・それが全てなのだろう。まぁ、当時の自分の選択は間違っていなかったと思うが。こうして君と出会えた訳だしね。」
青年が呟く横に、青年と同年代と思しき女性が静かに寝息をたてている。
「あの頃の俺には、まさか自分がこんな安らぎを得られるとは思ってもみなかっただろうよ。しかし、そういうものなんだろうな、この世界というのは。」
青年は窓の外を見上げる。
あの時と同じように。
あの時と変わらぬ虚しい空を。
しかし、そこにはもう嘗ての憂いや迷い、悲しみの影はなかった。その代わりに少年の瞳には、不動の意志が悠然と湛えられていた。
窓の外には月明かりに照らされた夜が広がる。
青年はただ無限に広がるその夜を、いつまでも視ていた。
 
 季節は天高く、馬肥ゆる秋である。