少年は彼の言葉を思い出していた。
『君はどっちなのかな?』
その言葉が頭に響いて離れない。そして考える。確かに少年にはどっちつかずな所があった。幼い頃からの環境もあり、突出したいと云う想いを強く持ちながらも結局無難な選択をする。極めて中庸を良しとする感があった。よく言えばバランス感覚に優れ仲裁者に適している。が、悪く言えば優柔不断のどっちつかずで決断力に乏しい。とは言え、自分の得手とする分野ではそれなりにリーダーシップは取れていたし、同年輩の中では頼られる存在でもあった。周囲からはそう見られていた。
 少年は感情豊かな人間であったが、普段はそれを包み隠し、周囲に同化するために、冷静で知的な仮面を被っていた。その為、一度仮面が外れると途端に感情が揺さ振られてしまう。そんな脆さを持ち合わせていることを自覚していた。そこまで思い至り、漸く少年は一つの事実を認めた。自分は彼我のどちら側にも立っていない。そう、“どちらでもない”ということだ。
 少年は胸の奥に小さな痛みを覚えた。一人の少女の顔が脳裏をよぎる。
「そうか・・・だからあの時も、後悔したのだな。」
少年は此処に至り、初めて一つの認識を手に入れた。少年は笑ったような、寂しいような、泣いているような、そんな判断のつかないような複雑な表情を浮かべて校庭を眺めた。しかし、少年の憂いを帯びた嘗てのような瞳は、もうそこには無かった。
 色づき始めた木々の向こうには、雲間から幾筋かの光が差し込んでいた。