ある学者曰く、「子供らしい子供が、大人らしい大人になる」と。そういった意味で言えば少年は充分"らしくない"と言えた。即ち子供らしい子供にも、大人らしい大人にも成り得ない。それには少年を育んだ環境が大きな影響を与えたことは言うまでもない。しかし、それだけでもないだろう。所詮、全てを説明する術を我々は持ち得ない。
 その年の2月14日、少年は図書室に呼び出された。そして同じクラスの少女から告白された。当時の少年には想いを寄せている別の同級生が居たが、叶わぬ恋と知っていた。その為、妥協して告白してきた少女と付き合うことにした。彼女は確かに可愛らしい少女であった。自分に好意を寄せていることも良く分かった。だが少年は物足りなかった。
「そんな事では自分の心の空白は埋められない。」
そんな想いが少年の心にいつも翳りを見せていた。
 彼女のことは嫌いではなかったし、一緒に居るとそれなりに楽しくもあった。しかし、付き合い始めて半年が経った頃、別れた。「何故?」と訊く彼女を尻目に少年は無言で立ち去った。自分の心に嘘をついて、妥協して、それ以上の時間を過ごすことは少年には出来なかった。少年はまだ未熟で、それほど器用でもなかった。
 少年は別れたことをすぐに後悔した。しかし、失った時は取り返すことは出来ず、その後数年の間、少年は小さな罪悪感に苛まれることになった。