「未来ってのは何なのかなって思ってさ。自分の将来とかさ。物理学的には、その時点になって観察してみて初めて自分の未来の状態が決定するっていうことだろう。しかし、論理学で言えば、将来の仮想の自分が、観察された時に現実の自分に切り替わるだけだ。どちらにしても、現在というのは、未分化な状態であることには変わりない。」
彼は少年の顔を覗き込むように近付いた。彼の目の中に少年の顔が映し出される。
「即ち、『未来はどうにでも変わる』ってことさ。」
彼の言葉に少年はギクリとした。彼は何も知らないはずである。なのに、何故そのような台詞を自分に対して言うのか。少年は困惑した。
そんな少年を余所に彼は続ける。
「結論だけから判断すれば、そんなに難しいことじゃない。誰だって思い付くことさ。自分の努力次第で未来は変えられる、ってね。でも、本当にそう思ってるのかな? 本当は、自分じゃどうしようもない、何も変えられないって諦めてるんじゃないの?」
「・・・それの何が悪い?」
少年は彼から目を逸らしながら小さく呟く。
「別に悪いなんて言ってないよ。前にも言っただろう? 要は認識の問題さ。自分がどの位置に立ってるか。それが、今後を左右する。ただ其れだけの事だよ。」
彼はそう言うと、少年に向かって歩き出し、すれ違いざまに一言。
「君はどっちなのかな?」
と言い残し、その場を去って行った。

外は暗く、雨音は誰も居ない室内にも等しく響いていた。