「なぁ、知ってる? 量子力学ではさ、物体を観察する行為自体が既に、その物質に影響を与えてるんだってさ。」
外は雨。曇ったガラスを背に彼は言った。
「ハイゼンベルグの不確定性原理だっけ? 確か位置と運動量の積はプランクの定数より小さくなることは無いとかいう・・・」
少年は答えた。
「そう、量子の世界では、観察者(主体)が被観察者(客体)に影響を与えてしまう。観測が状態を決定してしまうという、普通の常識とは異なる概念だ。有名な喩え話にあるだろう? 箱に入った猫は生きているか、死んでいるか、ってな。」
彼は饒舌に語る。
「シュレディンガーの猫、か?」
少年も返す。
「ほぉ…さすがは皆から『歩く辞書』と言われるだけはある。しかし、実はシュレディンガーの猫は物理学の話ではなく、論理学の話なんだよ。」
「そうなのか? 何でもシュレディンガー方程式ってので説明したり何とかって聞いた気がするが。俺も物理学なんてのはよく分からんが。」
少年は断片的な知識を持ってはいるが、専門的な勉強をした訳でもないので当然と言えば当然であった。
「まぁ、拡張されたファジー理論を使うと、という限定はあるがな。要は確信度というか、可能性の問題なんだ。」
「可能性、ね。分かったような、分からないような答えだな。で、お前は何が言いたいんだ?」
少年は訊く。