青年は夢を見ていた。
身体を起こし、しばし呆ける。
頬を伝う違和感。
触ると手が濡れている。
そこで初めて自分が涙を流していたことを知る。
どんな夢を見ていたのだろうか?

 青年は思い出そうとするが、思い出せない。
酷く懐かしいような、それでいて切なく、そして寂しいような・・・そんな感情の残滓が青年の心に留まっている。

 いつまでも呆けている訳にもいかないので、布団から出て身支度を始める。
朝食を済ませ、スーツに身を包むと鞄を持って家を出る。
自転車に乗り、走り出すと朝日が目に入り、眩しさを感じる。
空気は澄み、まだ静かな街は爽やかな朝を印象付けていた。