木製の椅子に座るトキ、ピアノの椅子に座る私。
少しの間、二人でぼんやりと窓の外を眺めた。

来た理由など、まったく聞かれる様子もなく、無理に喋らなくても良いというような心地良い空気が流れて、私は自分の心が凪いでいくのを感じた。

トキと一緒にいると、よくこの空気に出会う。

もしかしたら彼自身が、意識的に、または無意識に作り出しているものなのかもしれない。

そうだとしたら、素晴らしい才能だ。

私はこの、穏やかな空気が好きだった。


窓の外、広がる空は、明るい橙に、次第に薄いピンクが混ざり始め、下から深い青が登ってきた。

入り込む風も、少しずつ冷えてきているようだ。

ゆっくり息を吐き、吸い込む。
胸を、透明な風が吹き抜けたように感じた。


そして、丁度そのとき。
しずかな空間に、トキの声が響いた。