はっと息を呑む。

――起きた。
気付かれた。

あああああ…。
ど、どうしよう…!

頭の中、黒い渦がぐるぐると巻いて硬直した。

しかし私の手を握った手はそのまま、それ以上、何も起こらない。
怪訝に思ってトキの顔を覗きこんでみれば、さっきと何ら変わりのない穏やかな寝顔がそこにあった。

トキは―…寝ていた。

ぷつんと緊張の糸が切れて、強張っていた肩ががくんと落ちる。
けれど、私は又、驚きに息を吸った。

寝ているはずのトキが、ぎゅっと、私の手を握っている手に力を入れて、自分のほうに引き寄せたのだ。

勢いで、上半身がピアノの上に乗り上げるようなかたちになってしまう。
顔をあげれば、さっきよりもうんと近くにトキの顔があって。


私はもう、顔が茹で上がってしまうのではないかと思った。


そうして、混乱した私は結局、彼の名を震える声で呼び、起こしてしまったのだった。