「その子の母親は入院してまして、どうしても最後に会わせてやりたくて……」

 やり切れないのだろう。涙の雫がアスファルトに痕をつけてゆく。

「私の最後の望みはその子を母親に会わせてやることなんです。お願いします! 

その子だけでも母親の所に連れて行ってくれませんか」

 血を吐くような男の願いが胸に響き、殴ったことを後悔した。おそらく彼も後悔しているだろう。

「なあ……」

 膝の砂を払ってやりながら子供の目を見据えた。

「母ちゃんに会いに行くのか?」

「うん!」

「そうか。よく泣かなかったな、えらいぞ」

 目に涙をこらえた男の子の頭を撫でると、腹を押さえた男に向き直る。

「バイクでも何とか三人は乗れるんだぜ。どこまで行くんだ?」