午前六時十三分、大分市――。

 東の空が明るくなってゆくのを眺めながら、あさきちは後ろを振り返って言った。

「俺、あっち向いてますから大丈夫。ブチューっとやっちゃって下さいよ」

 そうおどけるあさきちに亜紀の両親は苦笑する。瓦礫の上に二人腰掛け、寄り添うようにして最期を迎えようとしていた。

 一時間ほど前、ついにあさきちは亜紀の母を見つけ出し、真樹夫の期待に応えたのだった。

「亜紀は、幸せになれたかしら?」

 遠い空の下にいるはずの亜紀を想って母親はそう言葉を洩らす。父親はその長年連れ添った妻の頬に光る涙を拭った。

「真樹夫くんは約束してくれた。わたしは信じてる」

 二人の会話を聞いていたあさきちは胸を張って言葉を付け足した。

「大丈夫、あいつなら絶対大丈夫。必ず今ごろ二人でブチューってしてますから」

 そのシーンを真似する泥だらけのあさきちの姿があまりにも滑稽で、亜紀の両親は声を上げて笑った。

 最期まであさきちらしいその生き方はあまりにも爽やかで屈託がない。

 亜紀の両親の笑顔にあさきち自身もつられて笑い、そして笑いながら光に包まれていった。


(さよならだ……真樹夫)


 あさきちの脳裏に浮かんだのは最後の真樹夫の後ろ姿だった……