「やめろおーっ!」

 助けに駆け出せない自分の足を恨んだ。

 ようやくひとつとなった影は、炎を背に美しいシルエットを描いた。そのシルエットを見るだけで二人の心の内に俺はシンクロし、その感情が濁流のように流れ込んできた。

「逃げろー!」

 俺の死力を振り絞ったはずの声が銃声にかき消される。

(助けたかったのに!)

 抱き合ったふたりの体が弾かれ、のけぞった。

(やっと会えたのに!)

 美里の長い髪が舞い上がる。血しぶきが次々と上がると、その影はゆっくりと崩れ落ちていった。

「なんで殺す!」

 銃の掃射を受けた鎮圧部隊が応戦を始める。その弾丸の応酬が行われている真ん中で、二人は抱き合ったまま地面に転がった。

「お前ら人間か!」

 悔し涙が止まらない。最期の美里の叫びが耳に残って離れない。目をつぶって走り出した坂下の姿が目に焼き付いて消えない。