振り向いた先、大通りの真ん中を女性がひとり歩いている。髪の長い線の細い女性だ。ビルの陰に身を隠す部隊はその女性に向けて必死に呼びかけていた。

 道を隔てた敷地内の部隊と対峙しているそこは、銃撃戦がいつ始まってもおかしくない場所だ。しかし声に全く反応を示さず、まっすぐにその死地に足を踏み入れていた。

(あれだ!)

 その姿は分かるものではないが、明らかに声に反応しない行動がそれと教えている。距離はおよそ百メートル。

「見つけたぞ!」

「えっ!」

 鋭くバイクをターンさせると死地を目指して一気に加速する。敷地内のバリケードから銃を構えた隊員が一斉に顔を出した。

「美里!」

 祈るような気持ちが坂下の口を飛び出した。

 迫り来るバイクに反応したのだろう、敷地内から一筋の光と共に弾丸が放たれた。弾丸の風切り音が耳を掠めたと思った瞬間、膝下と左肩に激しい衝撃が走る。

「……っが!」

 弾かれるようにバランスを崩したバイクがアスファルトに火花を散らし、俺たちは地面を転がった。

(坂下っ?!)

 回転の止まった上体を起こすと、坂下に目を走らせる。