目の見えない男と耳の聞こえない女はどれほどの困難を乗り越えて愛を育んだのだろう? たったひとつ言葉を交わすのにどれだけの障害を乗り越えねばならないのだろう?

 暗闇に生きる人間と静寂に生きる人間の愛――。

「捜してやる!」

 俺は坂下にそう告げていた。

 もう亜紀には会えないかも知れない。抱きしめてやることは出来ないかも知れない。けれども、俺だけが逃げるわけにはいかない。ここまで俺も多くの人の犠牲に助けられてきたのだから……。

 三人を乗せて運ぶのはこの惨状の街では困難を極めるだろう。従って俺が坂下に渡してやれるのは彼女のもとまでの片道切符だ。

「覚悟は良いか?」

「もちろんです!」

 決死の覚悟を見てとった俺は、炎の巻き上がる中心へとバイクを進めた。またひとつ火の玉が夜の街を焦がし、轟音を響かせ地面を揺らす。

 俺は炎のただなかへ飛び込んだ。