――妊娠した亜紀は医者に渋い顔をされていた。

「旦那さんももう少し奥さんの体を気遣ってもらわないと」

 産婦人科の診断書を見たかかりつけの呼吸器科の医師は、俺たちを交互に眺めながらペンを机の上に放り投げた。

「母体に何かあったら一番影響を受けるのは胎児だって何度も説明したはずですよね」

「すいません」

 謝る俺を制するように亜紀は強く言った。

「わたしがどうしてもって、無理を言ったんです」

 その強い口調には確固たる意志が含まれている。俺もその言葉に押されたのだった。ため息をつくと医師は言った。

「では今以上の注意が必要ですよ。あなただけの命では無いのですから」

 その言葉に俺たちは大きく頷いた。しかし何ヵ月もすると当初の緊張感を保てなくなったのは俺のほうだった。