俺は立ち上がると男に頭を下げた。まだその目は怒りに燃えている。

「すみませんでした……あの頃の俺にはどうしようもなかった……あなたまで傷付けてしまって申し訳ない。でも……今なら幸せに出来る。だから、許してください」

 深く頭を下げる俺に男は何も言わずにきびすを返した。

「時間無いよ。行こう」

 あさきちに促されるまま体育館を後にする。その時あの男に呼び止められた。振り返ると目の前に懐中電灯が飛んできている。俺は慌ててそれを掴んだ。

「亜紀ちゃんを見つけてくれ、頼む!」

 懇願する男の姿がそこにはあった。俺は頷いて外に飛び出すと、再び瓦礫の山へと駆け出してゆく。

「亜紀っ!」

 その名前を何度叫んだことだろう。瓦礫の下に明かりを差し込み、潰れた屋根をどかせて中を確認してゆく。しかし亜紀の姿はどこにも無かった。

「もっと下じゃね?」

 波に呑まれたのであれば随分下まで流された可能性もある。既に全身を泥にまみれさせた俺たちはさらに下を目指した。

「おい、こっち!」

 微かに声が聞こえた気がする。