その言葉を聞くとヘリは上昇し、隊員は救助活動を再開した。

「あっちだ、行こう」

 ここから百メートルほど先の避難所。そこは確か学校だったはずだ。

 避難所を目指してほんの少し登っただけで、乾いた地面が顔を覗かせた。生死を分ける境界線のほんのわずか下に亜紀の家があったことが残念でならない。

 しかしそこまで来ると避難所に向かう人々が意外に多くいることに気付いた。

「これなら生きてる可能性も高いんじゃね?」

「当たり前だ。絶対生きている!」

 生きていると信じきる事でしか、心を保てない。泣き出したくなるような不安の中、避難所のある学校へと駆け込んだ。

「亜紀っ! 亜紀ぃっ!」

 門を潜った俺はあらん限りの声を張り上げる。幾人かの避難者が顔を向けたが返事をする気配は無いようだ。

 そばの自衛隊員が話しかけてきた。

「避難所は体育館です。人を捜すならそちらへどうぞ」

 言われるままに行った先の体育館には百人ほどの人しかいなかった。もっと多くの人で溢れ返っていると想像していた自分の認識は甘かったのだ。

 失意のなか、発電機で照らされた薄暗い館内へ足を踏み入れる。影に遮られて顔を確認するのが困難な中、しびれを切らしたあさきちの声が響き渡った。

「北村亜紀さーん!」